第1章

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 まるで痛恨のミスをしてしまったかの如く、がっくりと肩を落とした幸恵は、落ち込んだ気分が浮上しないまま年末年始休暇に突入する羽目になったのだった。  そして大晦日の午後、軽めに昼食を済ませた幸恵は台所を片付け、各部屋の窓の戸締まりや各所の不要な電源を落としてから、収納棚からキャリーバッグを引っ張り出した。そしてその中に手早く衣類を詰めながら、この二日連絡を絶っている人物に向かって心の中で悪態を吐いた。 (いつも定期的にメールや電話してきてたのに、話をしようと思った時に限って二日間全く音沙汰無しって、どういう了見なのよあいつはっ!? さり気なく聞き出そうと思ってもできなくて、気になるじゃないの!)  八つ当たり気味に小物を詰め込みながら、それでも一応、事態の打開策を考える幸恵。 (かと言って、こっちから電話をかけるって言うのも。今までそんな事した事は無いし……)  そこまで考えた幸恵は両手で頭を抱え、錯乱した様に叫び声を上げた。 「うぁあぁぁっ、腹が立つ! もう、どうしてくれるのよ! このままじゃ心穏やかに、年越しなんてできないじゃないの!!」  そんな幸恵の叫びに重なって、玄関のチャイムの音が「ピンポ~ン」とやや間抜けに鳴り響いた。 「こんな慌ただしい時に、誰よ? 全く」  ブツブツと文句を言いながら玄関に向かった幸恵は、覗き穴から慎重に廊下を確認したが、「え!?」と驚きの声を上げて慌ててロックを外してドアを開けた。 「やあ、こんにちは、幸恵さん。今日はあまり冷え込まなくて良かったね」  今現在幸恵の苛立ちの原因となっている男は、にこやかに来訪の挨拶をしたが、幸恵は顔を引き攣らせて応じた。 「どうして前触れ無しに、いきなり現れるのよ。それに私、そろそろ出かける所なんだけど」 「分かってるよ。だから一緒に行こう。荷物は持ってきたし」 「……は? どこに?」  和臣が持参したボストンバッグを軽く持ち上げて幸恵に示すと、当惑した幸恵に事の次第を語った。
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