第1章

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「ところでこれ、何て書いて有るのかな? 幸恵さんが『大ヒット間違い無し』って言いながら上機嫌で書いてたけど、どうしても読めなくて。ずっと気になってて」  そう言われて内容を確認した幸恵は、益々落ち込み、今度こそ床に突っ伏したくなった。 「ごめんなさい。自分でも読めないわ。私、何を思い付いたのよ……」 (恥の上塗り……。それにしたって、酷過ぎるわ)  余計な事をまた言ってしまったと思った和臣は、何とか無難な事を口にしながら宥めてみる。 「夢の中で大発見したら全然覚えていないとか、結構そういう事有るよね……。うん、気にしないで。聞いてみただけだから」  それから幸恵は暗い表情のまま何とか食事を食べ終え、心配そうな和臣に星光文具の正面玄関まで送って貰って、定刻より二時間遅れで出社した。しかしその日、幸恵の神聖な職場は、落ち込んだ幸恵の神経を容赦なく逆撫でする場所でしかなかった。 「あれ? どうして出社して来たんだ? 荒川。係長が、男としけこんでるとか言ってたが?」 「誘拐された翌日なんだし、仕事納めだし、休んでも誰も文句は言わないのに、真面目過ぎるぞ」 「それにしても、係長から昨日の話を一通り聞いたが、男より特許を取ったんだってな」 「いや、天晴れ。男が少々気の毒だが。そもそもお前に並みの男は無理だろうしな」  そんな事を口々に同僚達に言われ、幸恵は周囲の男達と、職場内で余計な事を言いふらしたであろう弘樹を纏めて一喝し、益々怒りのボルテージを上げた。  そして弘樹以外の上司達にも報告に出向き、迷惑をかけた事に対する謝罪や報告書を作成しているうちに、あっと言う間に一日が終わる。  仕事中はまだ他に意識を向けている事ができていたが、帰帰り支度をする段階になって、朝に目の当たりにした和臣の悲惨なワイシャツ姿が、再び幸恵の脳裏に浮かんできた。 (やっぱり幾ら何でも、あれは無いわよね……。別にお礼とかそんなのは抜きで、社会人の一般常識として何とかしないと、寝覚めが悪過ぎるわ)  職場からの帰り道。悶々とその事について考え込みながら歩いていた幸恵は、悩んだ末に自分に言い訳する様にして、とある店に飛び込んだ。しかしそこで重大な事実に気が付いて、愕然とする。 (しまった……。そう言えばワイシャツって……。どうして朝のうちに、さり気なく確認しておかなかったのよ!)
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