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「はぁ~……」
帰りのエレベーターの中で、私は一人深いため息をついた。
全くと言っていいほど、手ごたえがなかった。
むしろ、面接官は私の話をちゃんと聞いている様子すら見えなかったのだ。
おそらく今回もダメなのだろう。
大学4年生に上がり就職活動が始まったが、ここまで全く上手くいっていない。
上手くいかない原因は分かっている。
意思があやふやなのだ。
「誰かを助ける仕事がしたい」という気持ちはあるのだが、それが具体的にどういうことなのかが自分でも分からない。
だから会社の志望動機が言えない。面接官はあきれて、ちゃんと話を聞いてくれさえしない。
こんなふわふわした、意識の薄い学生を取る会社なんてあるのだろうか?
ルックスは今日の中だったらダントツに選ばれる自信があるのに……。
エレベーターが一階に着き、会社を出ようとした時だった。
「香月さん! 香月怜菜(かつきれいな)さん! ちょっと待って!」
驚いて後ろを振り返ると、先ほどの30代くらいの面接官が息を切らしながら走ってきた。
「は、はい! なんでしょうか……?」
「よかった、間に合って……。……ハァ、ハァ……。ちょっと待ってね……」
面接官は息を整えるのに必死な様子だった。
そういえば、面接中この人だけは私の話を頷きながら聞いてくれた。
優しそうな表情をしていて、とても穏やかな方に見えた。
「……ふう、いきなり呼び止めてごめんね。僕の名前は犬塚良之(いぬづかよしゆき)。香月さん、この後ちょっと時間あるかな?」
……なんだ、ナンパか。このおっさんも見かけによらずよくやるな。
「いえ、この後予定があるので……」
適当に断って立ち去ろうとすると、犬塚と名乗った男性は私の右手を掴んだ。
「――ちょっと」
「香月さん、確かにいきなりこんなこと言われても怪しいのは当然だと思う。でも、どうしても香月さんに伝えなくちゃいけないことがあるんだ。香月さんは今就職活動をやっている様子だけど、全然上手くいっていないんじゃないかな……?」
「……まあ、はい」
女子大生をナンパするおっさんのくせに、さすがは面接官だ。
この後私に面接の秘訣をレクチャーしてくれるとでもいうのだろうか?
……不本意だが、この状況を打破するために話を聞いてみてもいいのかもしれない。
「……じゃあ、そんなに遅くならなければ大丈夫ですよ」
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