残 留 物

怪談DJ『残 留 物』

私の住んでいるアパートは5年、10年と長く住む人がいる反面、1年を待たずに引っ越していく人が多くいる。自宅の建て替えなどで短期契約で入居してくる人もいるが、それにしても半年から10ヶ月ほどで越して行ってしまう。
まあ、アパートな訳だから、人の出入りがあるのは当たり前の話なんだけど……その引っ越しに際して少々問題がある。作業で出たゴミを曜日に関わらず置いていってしまうのだ。確かに新居にゴミを持って行きたくないのは理解できるのだけど。
それにしたってプラスチックの衣装ケースやガスコンロ、服、ベビーチェア、カラーボックス、自転車、なんでもござれだ。収集日に持って行ってくれる物もあるが、それまでは集積場所にデカい顔して鎮座ましましている。邪魔なことこの上ない。
そして……。
「誰だよ、こんな所にこんなモン置いていったヤツは」
ある日、仕事から帰ってくると、駐車場の片隅に小型の冷蔵庫が出現していた。コードもまとめられず投げ出されたまま、背面を見せて佇んでいる冷蔵庫。朝出かける時にはなかったので、昼間に引っ越していった誰かがリサイクル料を惜しんで放置して行ったのだろう。
「いい加減にしろよなぁ。ちゃんと引き取ってもらえよ。どいつだよ、まったく」
とにかく今日はもう時間も遅いので、翌日に管理会社で連絡する事にして自分の部屋に戻った。
部屋の明かりを点け、空気を入れ替えようと窓を開ければ、件の冷蔵庫は我が家のベランダから見下ろせる場所にある。カーテンを引いて窓からの景色をシャットダウンしてしまわない限り、嫌でも目に入ってくる。
なんとはなく「嫌な」気分になりながら、私はその冷蔵庫を視界からも気持ちからも閉め出した。
翌日、10時になるのを待って管理会社へ電話をかけ、駐車場に冷蔵庫が放置してある事を伝えた。電話を取った担当者は、多少ウンザリしたような調子で私の話を聞いている。まあ、ここ1～2年でおっそろしくマナー違反が目立つようになったゴミの出し方について、近隣の住民や古参のアパート居住者からクレームが入っているのだろうと、容易に想像がついた。私の他にも連絡が入っていたのか、夜に仕事から戻ると駐車場の隅の冷蔵庫には管理会社からの警告文が貼り付けられていた。