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「あ、坂井田さーん!」
いつも私と風間くんが話し込む場所は、この公園と決まっている。子供が追いかけっこをする広さはあるけど、滑り台くらいしか遊具がない、若干殺風景な公園。
「新しく作った歌ネタ、見て。」
ここまではるばる歩いてきた私に休む暇も与えず、早速そう切り出してきた。
風間くんはベンチに座ってギターを膝の上に構え、私はその真向いにしゃがむ。
私一人のためだけのお笑いライブが始まる。
指慣らしといった感じで、ピックで小さく弦を弾いた。
夜の静かな公園に響くのは、メリハリのある風間くんの歌声と、たまに私の笑い声。
忙しない日常を忘れさせてくれる、数分間の魔法。
最後にギターの余韻が完全に溶け去ってネタが終わると、風間くんは目を閉じてふぅーっと長い息を吐いた。
「…どうだった?」
「面白かった。うまく行けば、一発ドカンと当たるんじゃない?」
「うまく行けば、だよなー。そうなんだよなー…」
世界の厳しさを知ってしまった彼の目は、クラスで無敵の面白さを誇っていた高校時代に比べれば少し濁ってしまったけど、それでもなお輝きを放っている。
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