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六月が来て梅雨が終わると、またあの暑い日が続く。
その日が近付く度、あの悪夢が思い出される。
「ねぇねぇ、今日の夕ご飯はなーに?」
けれど、あの赤ん坊だった旭が今年でようやく小学一年生となり、広野家を更に明るくしてくれる存在へとなり始め、年々、その悲しみが薄れていくのを感じていた。
旭自身、太陽と里子の事を写真でしか見た事がなく、ずっと側にいる晴太だけを頼ってくれていた。
我儘とかは言わないけれど、周りの子よりも活発に成長した旭は、今日も顔に擦り傷を付けて帰って来た。
「夕ご飯の話しの前に、ここに座りなさい」
「えー、また説教?」
「また説教、じゃない! さっき担任の先生から電話があって、テストの時間に鉛筆を転がしながら解答してましたって言われたよ。なんでそんな事したの!」
「だって、算数分かんないんだもん……」
「なら、俺が……」
「晴ちゃんはお仕事忙しいでしょ? それに、帰ったら掃除に洗濯……いっぱいしてるから……」
「う……」
その言葉に、なんて優しい子なのだろうと絆されてしまいそうになる自分がいて、晴太はグッと堪えた。
「なら、俺が教えるよ」
「え? いいの?」
と言って、風呂から出てきたのは、仕事終わりに泊まりに来た英輝だった。
英輝は大学卒業後、在学中に起こした事業を展開させ、卒業と同時に会社を興し、この間、ここから十五分もしないビルに会社を設立させた。
まだ無名な会社だと英輝は言うが、父親に借りて興したその会社も、あっと言う間に軌道に乗らせ、全て返済したと言っていた。
だから、無名な会社と言うのも今だけな気がする。
「英君は算数できる?」
「あぁ。得意分野だ」
「ほんと? わーい! やったね!」
英輝が頭のいい男だという事は昔から知っていたが、まさか、大学卒業してすぐに会社を設立するほどやり手だとは思っていなかった。そんな英輝を、晴太は昔から尊敬していた。
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