☆☆ 5 ☆☆

80/117
1166人が本棚に入れています
本棚に追加
/358ページ
急に心臓がドキドキしはじめる。 母さんもオヤジも、厳しい顔つきになった。 ノルがすぐに宿屋を出て、オヤジ達も後を追う。 俺も慌ててついていく。 路地を抜け、奥の階段を降り、そんな予感はしてたけど、昨日送っていったハナンの家の前で全員止まった。 俺たちだけでなく、近所の住人も何人か家の前で集まり、心配顔で話し込んでいた。 おっさん連中の数人が、オヤジに気づいて声をかけてくる。 「いま、れいの余所者連中のとこに、様子見にいかせてるんだが…」 「朝起きたら、ハナンが消えてたって」 いっても、たぶん収穫はないだろう。 オヤジはうんうんと話を聞いて、その間にノルが勝手にドアを開け、続いて母さんも家の中に踏み込む。 居間らしき部屋で、宿屋のおばあさんと、ハナンの母親らしきおばさんが立っていた。 断りなく入ってきたので、さすがにびっくりしたようだ。 「おはよう、お邪魔するわ。娘さんのお部屋を見せてもらえる?」 にっこりと母さんが言うと、おばさんはこくこくうなずいて、部屋を案内してくれる。 母さんが笑顔で何か言うとき、断られる場面をみたことがない。 ぞろぞろとついていき、短い廊下の先の小さな部屋に案内される。 ベッドがひとつと、小さな机と、物入れらしき木箱がある、狭い部屋。 窓はないからよけいに狭く感じた。 誰もいない──その小さな机の上に、ぽつんと。 黒い香炉があった。 「!」 あった!
/358ページ

最初のコメントを投稿しよう!