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急に心臓がドキドキしはじめる。
母さんもオヤジも、厳しい顔つきになった。
ノルがすぐに宿屋を出て、オヤジ達も後を追う。
俺も慌ててついていく。
路地を抜け、奥の階段を降り、そんな予感はしてたけど、昨日送っていったハナンの家の前で全員止まった。
俺たちだけでなく、近所の住人も何人か家の前で集まり、心配顔で話し込んでいた。
おっさん連中の数人が、オヤジに気づいて声をかけてくる。
「いま、れいの余所者連中のとこに、様子見にいかせてるんだが…」
「朝起きたら、ハナンが消えてたって」
いっても、たぶん収穫はないだろう。
オヤジはうんうんと話を聞いて、その間にノルが勝手にドアを開け、続いて母さんも家の中に踏み込む。
居間らしき部屋で、宿屋のおばあさんと、ハナンの母親らしきおばさんが立っていた。
断りなく入ってきたので、さすがにびっくりしたようだ。
「おはよう、お邪魔するわ。娘さんのお部屋を見せてもらえる?」
にっこりと母さんが言うと、おばさんはこくこくうなずいて、部屋を案内してくれる。
母さんが笑顔で何か言うとき、断られる場面をみたことがない。
ぞろぞろとついていき、短い廊下の先の小さな部屋に案内される。
ベッドがひとつと、小さな机と、物入れらしき木箱がある、狭い部屋。
窓はないからよけいに狭く感じた。
誰もいない──その小さな机の上に、ぽつんと。
黒い香炉があった。
「!」
あった!
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