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◇◇
突然、雪ちゃんと顔のよく似たヤツが現れて雪ちゃんを抱きかかえて立ち去って行く。
それをただ、呆然と見つめてた。
雪ちゃん…何で?
どうして無理をしたの?
『体調の悪い日は会うの延期してくれますか…?』
『ん~?気が向いたら。』
『…。』
『んでも、雪ちゃんが延期して欲しい時は俺は気が向く。』
『無理はダメ』って頭を撫でたら嬉しそうに笑ってたのに。
一年一緒に居たのに俺は雪ちゃんの気持ち、なんもわかんないまんまじゃんか。
一度だけ送った事のある病院の前までふらふらと歩いて来ても、瞼の上は雪ちゃんの笑顔の残像と、倒れ行く姿が鮮明に焼き付いていて、腕にはその重みがハッキリ残っていて。ずっと震えが起こったままで、中に入れなくて足踏み状態。
溜め息を吐きながら、病院を見上げていると、入り口からさっき雪ちゃんを抱えて行った、そっくりなヤツが出て来た。
多分、雪ちゃんがよく話していた双子の弟…『歩』だよな。
「…雪は状態安定して今、眠ってる。」
俺の事のみならず、気持ちすら知っている態で話し出す歩は、雪ちゃんと同じ薄いブラウンの瞳で、薄桃色の唇、そして…白く透明な肌色。背丈もほぼ同じ位で、短髪の柔らかそうな猫っ毛だけが、雪ちゃんとは異なった。
「…あんま似てねーな。」
俺の一言に目を見開く歩。
「…や、これでも双子なんすよ、俺と雪」
確かに見た目はそっくりだけど。雪ちゃんは、もっと笑顔が儚く暖かい。月みたいな子だから。
…だけど、不思議と、その目に見つめられたら、震えが止まった。
不意に秋の冷たい風が横から吹いて、歩の猫っ毛を少しだけ攫う。
笑顔一つ無い真っすぐと見つめるその眼差しに、断られる事を覚悟で頭を下げた。
「…会わせて欲しい。雪ちゃんに。」
今の俺に出来る事はこれしか無い。
どうしても会いたい。
下げた頭の先から、フウと溜め息が聞こえて来る。
「…本当はさ、『お前なんか願い下げだわ、クソ野郎』って言おうって思ってたんすよ。」
身体を起こすと同時に差し出された一冊の青いスケッチブック。
「でも、雪の意志を俺が変える事は許されないから。」
「ほら、早く受け取れよ」と無理矢理持たせられたそれを丁寧に捲ってみたら、あの河原の絵と俺の笑顔が飛び込んで来た。
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