ファンシーな彼

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「パーフェクト久我?」 「そ。だって、本当にそうじゃない?」 野乃花のうっとりした視線の先には、教室で男子たちと談笑する久我くんの姿があった。 親友の野乃花によれば、久我くんにはファンクラブまであって、ついたあだ名が『パーフェクト久我』だと言う。 「どこが?」 「顔が良くて頭も良くてスポーツも万能で性格もいい。これをパーフェクトと言わずして何と言う!」 力説する野乃花には悪いけど、私は久我くんの秘密を知っている。 久我くんのアノ趣味を知ったら、さすがの野乃花もドン引きだと思うけど。 あ、今日もいる。 職員室から教室に戻ると、一番前の席に久我くんが座って勉強していた。 他には誰もいない。 7時に部活が終わると、ほとんどの生徒はさっさと帰る。 私が今日残っているのは補習プリントをやるためだ。 うちの高校は毎朝100問テストというのをやる。英数国の3教科をローテーションで。 それで80点以上取れなかった生徒は翌朝までに補習プリントを提出しなくてはならない。 私は家に帰ると眠くなって夕食も食べずに寝てしまうことが多いので、いつも部活後に教室で補習プリントをやっていくことにしている。 今も英語のプリントをもらってきたところだ。 「あ、指原さん。英語?」 久我くんが顔を上げて、私の手にあるプリントに目を走らせながら問いかけてきた。 「うん。久我くんは? まだ帰らないの?」 100問テストで満点記録更新中のこいつがここに残っている理由は何だろう? 電車の時間に間に合わなかったとか? 実は久我くんも私も戸波村の人間だ。 高校の最寄りの笠井駅はターミナル駅で、大きな駅ビルもあって結構栄えている。 そこから、笠戸線で30分の距離に戸波はある。 県内第2の都市である笠井市に隣接する戸波村はド田舎で、笠戸線は2両編成のローカル線。 帰宅時間帯でも1時間に1~2本しか走っていない。 「うん。56分の電車、逃しちゃったから」 「ふーん」 今日も一緒に帰ることになるのか。 最近、こんな状況が多い。 野乃花に話したら羨ましがられるんだろうけど。
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