第1章

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 私は、結婚式に行くと憂鬱になる。  これは別に、私が結婚できないからという訳ではない。私にはれっきとした彼がいる。彼とは付き合いだして三年は経つ。今では同棲もしているし、結婚の話もちらほら出る。だけど、友達の結婚式に行くと憂鬱になることがある。    実は今日も友達の結婚式に来ている。  でも、何がそんなに私を憂鬱にさせるかというと、それは結婚する二人の馴れ初めを映したプロフィール・ムービーだ。  まさに今、その映像が流れている。友達の新婦は写真が趣味で、その趣味がきっかけで新郎と出会ったそうだ。新郎と新婦、二人には写真という共通する趣味がある。  本来なら微笑ましいプロフィール・ムービーなのだが、しかし私はこの瞬間だけは憂鬱になる。  なぜなら、私と彼のあいだには共通の趣味というものが一つもない。いや、趣味どころか、私と彼とのあいだには共通する部分が何一つないのだ。    例えば…  彼はおおざっぱだけど、私は几帳面。  彼はアウトドアだけど、私はインドア。  彼はポジティブだけど、私はネガティブ。  彼は運が良くて、私は運が悪い。  彼は背が高いけど、私は背が低い。  彼は左利きだけど、私は右利き。  彼は犬派だけど、私は猫派。  彼はたけのこの里派で、私はきのこの山派。  言い出したらキリがないが、私と彼は一ミリもかみ合わない。  映画を観に行っても、私は恋愛映画と言っても、彼はアクション映画と言う。ランチだって、私がイタリアンだと言っても、彼は中華だと言う。  二人で出掛けて、意見が一発で合ってすんなり物事が決まったためしが一度もない。  きっと前世が、彼は油で、私は水だったのだろう。  結婚式が終わって、新婦の友達が私の元に来てくれた。  彼女は私に「来てくれて、ありがとう」と礼を言ってくれた。私は「末永くお幸せに」と答えた。もちろん本心でそう言った。二人で共通の趣味を持っている彼女のことは羨ましかったけど。  彼女は私と別れるとき、「次は優子の番ね。今度は私を招待してね」と言ってきた。そして彼女は、幸せいっぱいの笑顔で新郎の元に戻って行った。  このときの私は、彼女の言葉にきちんと答えることができなかった。私は迷っていた。本当に彼と結婚していいのだろうか?と。なにせ私と彼は性質の違う二人なのだから。  私は帰りの電車でいろいろと考えていた。彼とのことを。
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