あふたー 1

2/5
253人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
「いてっ」 「あ、ゴメン。痛かった? もう少しだから」 消毒液を染み込ませた脱脂綿が頬の傷に何度か触れていった後、ペタリとカットバンが貼られた。 「はい、いいよ」 以前は喧嘩ばかりだった俺の手当をよくしていたから、小太郎は手慣れている。 ただ今回違うのは。 「お前もだろ。俺がやってやる」 小太郎も怪我だらけだってことだ。 あと、手当の場所が俺の部屋じゃなくて、小太郎の部屋ってこと。 いつも小太郎が俺の部屋に来てたから、小太郎の部屋に俺が来るのは久しぶりだ。 「俺はいいよ」 「よくねえだろ。消毒液よこせ」 「だって冬夜に頼んだらすごく痛そ「あ゛?」……イエ、オネガイシマス」 消毒液が入った瓶を逆さにして脱脂綿を濡らす。 勢いが良すぎて床まで滴ったそれを見た小太郎の頬が、引きつった。 「あの、やっぱり自分で…いだーーっ!!!」 口端の傷にグリグリと脱脂綿を押しつけると、小太郎は一気に涙目になった。 逃げようとする頭を、片手で鷲掴む。 「いたいいたいいたいっっ、指食い込んでるっっ」 今日はおじさんとおばさん、何時頃に帰ってくるんだ?」 「俺の悲鳴、無視っ!?」 お、額も切ってる。 「いだーっっ、って、ちょちょ、消毒液が額から目に垂れてきてるっっ」 「たっぷり染み込ませたからな」 下から手が伸びてきたかと思うと、ガッと手首を掴まれて剥がされた。 「何すんだよ」 「じこぼーえい。自分でやるから座っててください」 「せっかく恋人らしくしてやろうと思ったのに」 小太郎の顔が一気に真っ赤になった。 かと思ったら、そのまま蕩けた。 ヘラヘラと締まりのない笑顔を浮かべながら俺の手を離す。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!