343人が本棚に入れています
本棚に追加
/273ページ
**
心配がなかったわけではない。
もしまたいなくなっていたら……、
電話は、ワンコールで繋がった。
安心のあまり、豪太は、スマホを手に、その場に座り込みそうになった。
なんの用かと聞かれたから、声を聞きたかった、と答えた。
さっき別れたばかりじゃないかと、呆れられた。
愛している、と伝えると、絶句された。
しばらく無言が続いた。
豪太が心配になったころ、唐突に、週末のニュースの話を始めた。
「お前から着信があるまで、ニュースサイトを見てたんだ。週末のニュース、全然仕入れてなかったから」
声が少し、揺らいでいる。
ほかの人にはわからないほど、微かな震えだった。
だが、豪太には、はっきりと感じ取れた。
胸の鼓動が早くなっていく。
自分の声まで震えてしまわないよう気を付けて、豪太は言った。
「ごめん。僕のせいだ」
テレビのニュースを見せてあげなかったこといい、
帰っていくときの歩き方といい。
「……やりすぎた?」
鼻で笑われた。
不意に、ひどく慌てた声がスマホから聞こえた。
「窓の外! 窓の外を見ろ!」
言われたとおり外を見ると、赤くて大きな月が見えた。
「ストロベリー・ムーンって言うんだってさ」
遼は言い、確かに見たかと、念を押してくる。
見た、と答えると、電話は切れた。
最初のコメントを投稿しよう!