驥服塩車(キフクエンシャ)

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最初は綺麗だと言ってくれていたが、今ではごく稀にしか眺める事をしなくなった庭は荒れ放題で、こうやって私が手入れをしなければ、ソファーの下に巨大な根っこが伸びてきてしまうのをわかっているのかいないのか、私が引き続き小枝の選定をしているのを横目で眺めながら、すっかり元の定位置に落ち着いてしまった主は、羽毛のようにふわふわと揺れる金色の髪の毛を弄びながらも、時折暇だを繰り返し、足をばたばたと落ち着かなくばたつかせている。 (いつになったらあのソファーを掃除出来るのやら) 実際こちらが掃除したいのは、ソファーではなく、ソファーの下に転がっているもので、ずっと放置され続けているのを見る限り、もしかしたら知らない内に壊れてしまっているかもしれない。 少なくともファンレターは完全に風化しているだろうし、それを出した相手が、今も存在しているかどうかすら怪しい。 しかし、それも確かめようとすると、ソファーを片付けられると勘違いした主が慌ててこちらを止めるため、あの一画だけは非常に遺憾ながら無法地帯となって久しくなっており、ちらりとソファーの下から顔を覗かせている塔のミニチュアは、動いた際に踏んでしまったのか上の部分が見当たらない。 (あれは何という名前で呼んでいただろうか) 思い出した、バベルだ。 「何か面白い事ないかなー。ねぇ、何がいいかな?」 また唐突に言葉を投げかけられ、またしても作業の手を止めて振り返る。 この質問は単純なようで、実は奥が深い。何せ前科がある。
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