昔の記憶

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「共哉さん、ここついてますよ」 「え?あっ……」 彼女が作った夕食を食べていると、俺の口に彼女の手が伸びてきた。 「なんだか子供みたいです」 「葉月だってよくここについてるよ……」 俺は彼女の頬を痛くない強さでつねる。 すると彼女が「もう」と、口を膨らませるのが可愛くて、目を細めた。 彼女と暮らし始めてもうすぐ一年が経つ。 俺たちの関係は変わらない。 いや、変わっているのかもしれないが、穏やかに過ぎていく毎日だ。 寿は順調で、俺が手伝うこともなくなった。 彼女の父親と従業員が日々頑張っている。 正直、葉月が寿を立て直すと言っていた頃は気が気でなかっただけに、今の状況に安心している。 高級志向だった寿は新たな層をつけようと、若者向けにリーズナブルなものを扱う店舗を入れたり、流行りのカフェを入れたり、巨大なキッズルームを設けたりとわりと走り出しは好評だ。 まだ古さも残っているが、それは徐々にだ。 テレビで取り上げられたこともあり、このまま上手くいくのではと期待している。 「ねぇ共哉さん、今日お花見しません?」 「花見か、いいかもな」 「よかった、実はお弁当作ってるんです」 久しぶりの二人の休日。 昨晩は遅くに帰ってきたから、起きている彼女と会えなかった。 若干家で彼女といたい気持ちもあったが、それは閉じ込めた。 正解だったようだ。 「準備がいいな」 「はい」 去年の今ごろはこんな未来想像してなかった。
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