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その声にピクリと反応した私と冬汰は、2人揃って振り向いた。
……するとそこにはあの人が大きな目を更に大きく見開きながら、私を見つめて立っていた。
「……っ!」
どうして、こんな所に。
こんな時間にこんな所に、いるはずがないのに。
そう思った直後、夏休み中にこの病院に訪れたときの事を思い出した。
時間が経って、あのときに冬汰が私に言った事を今まで完全に忘れていたけれど。
あのとき、冬汰は確かに私に言った。
この人に似ている人が、病院へ入っていくところを見たと。
「やっぱり純ちゃんだ……久し振りだね。水族館行ったとき以来だよね?」
「……こんにちは、綾乃さん。お久し振りです」
いつだって、この人の存在を目の当たりにすると、自分は凄く萎縮してしまう。
だって、棗くんが長年愛してやまない人だから。
今も、棗くんの心を独占し続けている人だから。
だからか余計に、この人の事が輝いて見えてしまう。
私にはないものをきっと沢山持っているこの人の事を、妬ましく感じてしまう。
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