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2016・7・1
その死体は鬼哭島に漂着していた。生前は綺麗な女だったのだろう。いわゆる京都美人って奴で、楯刑事の好みだった。
「土左衛門ってはじめて見るんですけど、臭いですね?」楯は今年の4月に夕凪警察署に着任した。
それまでは京都にある四条警察署の生活安全課にいた。念願の刑事課配属にワクワクしていた。
「死体は何だって臭いさ。ケン、おまえも臭いぞ」
山崎警部補が仏に手を合わせた。
どーゆー意味だ!?楯健作、それが俺の名前だ。
楯がカメラ目線になる。
死体はガスのせいで腹がパンパンに膨れ上がり、海老みたいな気味の悪い生物が、首のあたりにへばりついている。
「こいつぁ、シャコだな」
「車庫?」
「蝦蛄。なかなか旨いんだよ?」
山崎が蝦蛄を体から取ってやった。
「可哀想になぁ」
「まさかゾンビのせいじゃ?」
楯はブルブル震えていた。2か月前だが、チーマー風の野郎が、郊外にある廃墟でゾンビを見たらしい。夜遅かったらしく、野外エッチをしようと入ったところ現れたらしい。
「クスリでもやってたんだろ?そんなもんいるわけないだろ」
山崎は鼻で笑った。
「馬鹿は相手にしない方がいいですね?」
「馬鹿が馬鹿って言うな」
ひどいなぁ。楯は思わず苦笑した。
「ちょっと、腹が痛いんでトイレに行ってきます」
「おまえは田中眞紀子か?」
「誰ですか?ウチの署にそんな人いましたっけ?」
「ゆとりはこれだから」
トイレに入り、右手を腰に回して革製のホルスターの蓋を開けた。ニューナンブ拳銃。
楯は拳銃を握って抜き出し、黒く妖しく光る銃身を見つめた。綺麗な色だ。
いつか、コイツで人を撃ちたいな。
断末魔って奴を聞いてみたい。
これを読んでる君もそう思わないか?
「ガイシャの身元が判明しました」
聞き込みを終えた山崎が戻ってきた。刑事部屋のブラインド越しに夕陽が差し込んでいる。
楯は、同僚の大月純とPSPのみんなのGOLFで遊んでいた。大月はゲームボーイやDSも持っている。「イェイ!ダブルボギーだ」と、大月が笑う。
「仕事中に何してんのよ!」
刑事課長の坂本杏奈がデスクをバシッと叩いた。
27歳、楯や大月より1歳年下だが既に警部だ。
「キャリアが偉そうに」と、大月が呟いた。
メンバーが刑事部屋の一画にあるテーブルに集まる。全員がメモ帳とペンを出す。
「ガイシャは錦織玲子、過去に人を殺しています」
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