番外編 彼らと彼女の事情

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 まだ何となく納得出来かねる表情だったものの、恭子は軽く頷いて手元に視線を落とした。それをさり気なく眺めてから、清人は再度仕事に取りかかったのだった。  そしてその日の仕事を終えた恭子が、借りている1Kのアパートに帰り着き、いつも通り上がり口にあるスイッチを押して部屋の灯りを点灯させた。すると生活感や個性を全て削ぎ落とした様な、無機質で殺風景な光景が現れる。  恭子は無言のままキッチン横を抜けて部屋に入り、小さな座卓の上に持っていたバッグと紙袋を乗せた。それから徐に紙袋からプリザーブドフラワーの詰まった箱を取り出す。箱の蓋を開けてひっくり返したそれを底に重ねると、透明なプラスチックカバーが付いたそれは、そのまま飾れる状態になり、色鮮やかな花の集合体は、そのモノトーン調の室内では明らかに異彩を放っていた。 「これを私にどうしろって言うのかしら? 相変わらず良く分からない人ね、浩一さんって……」  そんな事を呟きながらも、何となくその鮮やかな色彩から目が離せなくなっているのを、恭子は自覚していた。
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