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ドキッと胸が跳ね、思わず周りを見た。
病院なんかでイチャつくなよ、と思われてしまわないだろうかと。
しかし、よく見れば周囲の患者たちも付き添いの人に寄り添ってもらい、他人の視線を気にする余裕はないようだった。
「……ちょっと、安心する」
俺の肩先で呟いたキララが目を閉じた。
そうだ。
彼女は病人で、いつもの余裕はない。
不謹慎だが弱っている彼女は新鮮で、心がいつもより跳ねる。
「キララは俺から“借りる”のが好きだよな」
照れ隠しに視線をあらぬ方向へと向けながらそう言うと、肩先のキララがピクリと反応を見せた。
「……名字?」
「ん。一番初めにお前に貸したのは名字だったな、なんて思い出して」
「……そうだったね」
フフ、と声を出して笑った彼女を見て、あぁやっぱり元気な彼女の方が何倍も可愛い、と口元が緩んでしまう。
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