はじまりはいつも独り

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人は嘘つきだ。 「お嬢ちゃん、珍しい制服だね。どこに行くんだい?」 人の良さそうな初老の男性が軽トラックを止めて、車窓から声をかけてきた。 舗装された田舎道の左右、ここから見える地平線の果てまで青々しい草原が続いている。夏の日差しがアスファルトを焦がすようにジリジリと照りつけて、視界の先では陽炎(かげろう)によって道が歪んでいた。 「この辺りに、戦争はありませんか?」 少女はなんのことなしに言った。 「なんじゃそりゃ」と、男性は後頭部をかくように当たり前の反応を示すと、少女の背負っているギターケースを指差してこう続けた。 「じゃあなんだい、その後ろのは武器ってわけか。お前さんも大変だとは思うが、この辺に戦争はないよ。ここ数年人が死んだって話も聞かないんだ。東京や京都の方に行けばまだあるかもしれんが、それももう落ち火だなーー」 「そうですか」 男性の言葉を遮るように、少女が頭を下げた。慇懃(いんぎん)といえば聞こえはいいが、しかし、有無を言わさぬ圧力がその変わらぬ表情にはあった。 「あー............乗ってくかい?」 男はお茶を濁すように少女の大粒の双眸から目を逸らすと、後ろの荷台を指差す。別にこの男が優しいわけではない。このままこの年端もない女の子をこんな過酷な環境の中置いていくのは後味が悪いからだ。 しかし、男の提案に少女は静かに首を横に振った。 「いい、必要ない」
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