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ららとの遭遇は、本当に偶然の積み重ねがもたらしたものだった。
その前日は稽古の日で、夕方から家元の稽古場に行っていた。
この日の稽古は廻り花(まわりばな)だった。廻り花は亭主と客で床の花入れに順番に花を入れていく、茶の湯の稽古のひとつだ。
茶の湯は、茶を点てて飲むのがすべてではない。茶室のしつらい――床の間の掛物や入れる花などすみずみにまで心を行き届かせることを求められる。
恭敬さんによれば、茶の湯が総合芸術といわれるゆえん、ということらしい。
花の稽古をすることは珍しいこともあって時間が長引き、自分は親戚の特権で夕食を御馳走になった。
さらに食卓で家元というよりは伯父に、その日扱った花のことを聞いていたらすっかり遅くなり、結局そのまま泊まったのだった。
「普段は花鋏で事足りるやろうけど、廻り花や花寄せなどには必要だから持っておきなさい」
食事の後伯父から手渡されたのは、使い込まれた花小刀だった。
入門してわずか3年足らずの若造が家元の所持品を授けられるなんてことはそうないことだろうから、これも親戚特権だ。
家元の入れる花は、「花は野にあるように」と言ったわび茶の祖の言葉をそのまま表わしている、と思う。
どうすれば清々しさと生命力のある花をあるままの姿で床にすえられるのかわからないけれど、家元が手にした花小刀の存在は、そこに近づくための一歩のような気がした。
だから、単純に嬉しかった。
その翌日、家元からいただいた花小刀を鞄に入れ、京トラムに乗り込んだ。
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