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そう言ってエレナは、人混みに押された拍子に手を離し危うく通路にぬいぐるみを落っことす所であった女の子に、彼女の宝物らしい羊のぬいぐるみを返してあげる。
ジャクリ組時代の彼女を知る者が見たら、眉に唾を幾重にも塗っていたかもしれない光景であった。
「ありがとうお姉ちゃん!
ひーたんもお姉ちゃんにありがとうだって!」
「娘がすみません。
良かったねあやちゃん」
あやちゃんと彼女の母親は、エレナに礼を言うと一礼しながら再び歩き出す。
エレナとは反対の方向、即ちブルフォレスト駅のホームへと。
羊のぬいぐるみ以外荷物らしい荷物を持っていない事から、出稼ぎから戻って来る家族を迎えに来たのかもしれない。
(ありがとう…
か。
何だか恥ずかしいけど悪くないな)
心の中でそんな事を呟きながらも、エレナのペースが落ちる事はない。
ブルクス連絡船乗船の順番取りは文字通り早い者勝ち。
この順番取りレースに遅れを取ろうものなら、乗るつもりだった船を桟橋から見送る羽目になる事も十分に考えられるのだ。
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