第1章

64/66
78人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
-15-  澤木とナミの目の前に、焼骨が現れた。全身の骨がきれいに残された遺骨は、昔見た理科室の骸骨が、ただ細切れになっているようで、忠史のものであるという実感がわかなかった。  ナミが食事や排泄の介助を頻繁にするようになって、忠史の症状は落ち着いた。手足の拘束を解いても、手ぬぐいを差し出すことはなくなった。たまに車椅子で外に連れ出すと、気持ち良さそうに太陽を仰ぎ見ることもあった。だが忠史の生命力は、穏やかな表情とは逆に、目に見えて萎んでいった。そしてついに、パクパクと空気を吸い込むような素振りを見せると、たまった息を全部吐き出し、それきり息をしなくなった。ナミは澤木の手を両手でしっかりと包み、肉親が亡くなった悲しみを支えようとしたが、その時の澤木には、何の感情もわかなかった。ただ、「終わった」と、ナミにも聞き取れない、ため息のような小さな声が自然に出た。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!