1585人が本棚に入れています
本棚に追加
/286ページ
「ただいま」
家に帰った向井は、そこが真っ暗なのに気づく。
人の気配がしない。
「律……?」
と呼びかけたあとで思い出す。
そういや、友だちの家にみんなで泊まるとか言ってたな、と思い出しながら、ソファの背に腰かけた。
テスト勉強するという話だったが、集まって勉強なんてできるわけがない。
自分にも覚えがあるからわかる。
自分の友人たちは比較的真面目だったが、それでも、誰かが一度脱線したら、もう最後、鉛筆を持つ手は止まり、一晩中、ただ、しゃべっていた。
だが、いい思い出だ。
なんとなく当時を思い出す。
まだ自分の未来を漠然と思い描いていただけの頃。
……まさか、こんな未来が待ってたとはな。
想定外だ、と灯りのないキッチンを見る。
最初のコメントを投稿しよう!