最終章:一生、俺のそばにいてください

22/22
3564人が本棚に入れています
本棚に追加
/236ページ
「おまえ、なんでスーツなんだ」  新年早々、待ち合わせ場所に現れた獅子ヶ谷はスーツ姿だった。 「えー、だってハムちゃんのお母様に会うのに」 「……おまえ、俺をくださいとかいうんじゃないだろうな」 「え? 言うけど」 「言うな、バカ」  今日は、獅子ヶ谷を家に連れて行くことになっている。  また例によって父親はどこかへ行ってしまったが、母と姉と妹は家にいて、自分の恋人が来るのを待っている。姉はともかく、妹にはどう説明したらいいのか、一晩悩んだが、今は無理でもいつかちゃんと理解してもらうしかなさそうだ。 「あー、でも俺、無職になるかもしれないし、そんなこと言える立場じゃないか」 「それなんだけど、社長が退職届うけとってないってよ」 「は?」  獅子ヶ谷が最大にマヌケな顔をしていて、思わず吹いた。 「だから年明けは通常通りに出社しろって」 「それって、いいのかな」 「まぁ、最初に行くのは社長室だろうけどな」 「うへー」  年始の挨拶をかねて、龍崎に電話をした。  獅子ヶ谷が会社に残りたいと言っている旨を伝えると、わざとらしく「退職届なんてあったっけ?」と言ってくれた。  会社が始まったら、お礼を言わなくてはいけない。自分を励ましてくれた寅山社長にも。  自分たちは、本当にたくさんの人たちに支えられている。 「とにかく母さんには結婚とかいうな」 「えー」 「今日は、一緒に暮らす相手を紹介するだけだ」 「え? 一緒に暮らすって……」  ぽかんとした顔をする獅子ヶ谷。クソ、こんなときは鈍感なのかよ。 「その……前、おまえ一緒に住みたいっていってただろ」 「うん、言った。……え?」 「その入院してた母さんが春から、戻ってくるから俺の部屋を使わせて、俺は家を出ようかと」 「ほんとにほんと?」 「覚悟決めたって言っただろ」  獅子ヶ谷は飛び跳ねそうな勢いでガッツポーズをした。まったく、そこまで喜ばなくても。 「ハムちゃん!」 「なんだよ、うるせーな」 「一生かけて幸せにするから」  まるでスキップでもしそうな獅子ヶ谷は、心から幸せそうな顔をしている。 「当たり前だろ、バカ」  二人、顔を見合わせて笑う。  一緒に住むのは、始まりに過ぎない。でもどんなことがあっても、二人なら乗り越えていける気がする。  これからは何があっても、獅子ヶ谷とは離れない。大輝は薬指の指輪に誓った。    <完> あとがきに続きます。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!