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「何だよそれ~!! 笑わせないでよ~!!」
「だから言いたくなかったんだよ……」
吏人は、俺の隣に寝転がってゲラゲラ笑っている。
「……はぁ……妊娠3ヶ月とは。まさに俺たちが結ばれてすぐに出来た子どもだよね」
そして、割りと真剣にそんなことを言うものだから、俺はもう恥ずかしくって顔が熱くなって仕方ない。
「……おまえ、よくそんなこと平気な顔で言えるよな……」
「えー? だって、本当のことじゃない」
素知らぬ顔で微笑む吏人と目が合って、俺は手のひらで顔を覆った。
どうして、俺だけいつまで経っても慣れないのだろう。
同居してからもう結構半年近く経っているというのに、未だ吏人に対して恥ずかしくなって顔を赤らめたり動悸を覚えたりする。
いい歳した大人が、このざまだ。吏人に余裕があるように見えてしまうのは、俺が吏人を好き過ぎるが故なのか。
だから、たまには吏人に俺の下で乱れて欲しいと良からぬことを考えてしまうのだが。
「……そういうのって、何かの前触れかも」
「ん?」
「いやさ、よくあるじゃない。予知夢とか。
今回の秀和くんの夢もその手の類いで、何かを暗示してるのかもよ?」
“まぁどう転んでも俺は絶対に子どもを産めないけど”と吏人は笑いながら付け加えた。
「……何かの暗示、ねぇ……」
だとすると、何だ。
子どもができる夢が暗示するものとは。
俺が真剣に夢占いでも検索してみようかと考えていると、また吏人が大笑いした。
「そんな、真剣に考えないで!! 夢なんだから。それより、明日桜を見に行くことを考えようよ」
そうだ。俺は月曜日である明日から休暇を取っている。俺の地元の春を見せるという、吏人との約束をやっと果たせるときが来たのだ。
俺は、気を取り直して笑う。
「ごめんな、変なことばっかり言って。明日は楽しもう」
隣に寝転ぶ吏人の髪を撫でる。
きっと、綺麗なんだろうな。
桜と、風に揺れる吏人の柔らかい黒髪――――
俺はそんなことを考えながら、吏人の唇に一つキスを落とした。
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