24人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
これは、私…精神科医の野津本愛子(のつもとあいこ)が、
とある大学の医務室で心理カウンセラーとして働いていた頃のお話。
ある日の事。
一人の女子学生が
「心理カウンセラーの先生に相談したい事が有る」と、医務室にやって来た。
ちょっと小柄で美人な顔立ちのその女子学生は、
「私、花村頼子っていいます」と名乗った後に私に、こう切り出した。
「あのー先生。私のカレシが昨日から、おかしくなっちゃったんです」
てっきり、
私は、彼女…頼子さん自身の勉強の事とか恋愛の事とか、そういったタグイの悩みを相談されるかと勝手に予想していたので、彼女のその言葉にちょっと驚いた。
「おかしくなっちゃったって…一体、どんな風に?と、言うか今日、その本人は来ないの?」
「はい。彼…戸村英雄っていうんですけど、彼を医務室に連れて行こうとすると…『また、桃の中に戻すツモリだろ?!』とか言って凄く嫌がるんです」
「モモノナカ??」
「実はですね。先生。
英雄は、自分が桃太郎だと思い込んでしまっているんです」
「え??」
私は、頼子さんの顔をじーっと見た。
「じーっ」
桃太郎というのは…
『あの桃太郎』の事だろうか…。
パッと見た感じ…彼女の顔の表情や目線等は、いたって『正常』だ。
決して『妄想』等で話している訳ではないみたいに見えるが…。
頼子さんは、私のその思いを知ってか知らずか、大まじめな表情で言葉を続けた。
「きっかけは昨日、彼とデートした時の事でした…。その最中に私と英雄は、物凄くササイな事で大喧嘩しちゃったんです」
彼女が言うには……
最初のコメントを投稿しよう!