美奈side

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同時刻、左手に茶碗、右手に箸を持つ美奈は、感動に打ち震えていた。 十字に切った黄身からとろけ出る中身は、徐々にごはんへと浸みていく。半熟の白身にもほどよく振りかけられたであろう醤油は、しかし白身からは弾かれ、ごはんへ黒い染みを作っていた。 美奈が食べた一口目は、その白身と醤油が浸みたごはん。カっと勢いよく口に放り込んだ瞬間に、ふわトロの白身と醤油の塩気、ごはんの甘みが口の中いっぱいに広がった。 特筆すべきは、ごはん、醤油、白身の、味のバランスである。日本に生きる者であれば、少なくとも一回は「しょうゆごはん」なるものを聞いたことがあると思う。実際に試した者も居るかもしれない。ただ単純に、ごはんに醤油をかけて食べるだけという質素極まりない食事である。 もはや、食事と呼べるかどうかも怪しいその「しょうゆごはん」であるが、ごはんと醤油の加減が非常に難しいということをご存知の方は、とても少ないと思う。しょうゆが少なければただの味気ないごはんだし、逆にかけすぎてしまうと、とてもではないが塩辛くて食えたものではない。その味の調節はとても繊細で、ミリリットル単位での醤油の調整が必要となる。 しかし、そこに「ツナギ」となる緩衝材が存在していたらどうなるであろうか?ハンバーグにおけるパン粉のように、それ自体が主張することは決してなく、主役同士が離れ離れになることないよう調和を取る。この、目玉焼き on ごはんにおける白身の役割は、まさにそこにあると言えた。 白身の淡泊な味わいが、醤油の刺々しい塩辛さを優しく包み込み、ごはんとの完璧な調和を促す。 ブラボー…、おお、ブラボー…!
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