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彼の腕に抱かれた赤ちゃんは、輝かんばかりのキューティクルを光らせ、彼の死角である履歴書の裏に伸ばした夏月の人差し指を捕まえようと小さな両手を伸ばしてきた。
(この子が依頼された子…)
「だぁっ!」
「!」
…きゅーんっっっ
(恐竜フードのベビー服…!!!!)
「磯野…夏月ちゃんね? 響きは男っぽいのに、見た目とのギャップ! ギャップ萌えバンザイ! ん、キミ。合格~」
「!!?」
「いいね、いいね。可愛い女の子大好きだよ」
言いながら求められた握手に、されるがまま一緒に首が上下に動いた。
(か、軽い…)
ケーキ屋といい…語尾に、おじさんとついても違和感のない口調だ。
(お兄さん、なのかな…? 見た目は私とそんなに変わらない気がするけど)
「俺は早川恭賀(はやかわ きょうが)。恭賀のきょうは、共々の…難しいから辞書引いて」
(短気!)
「んで、この赤ん坊が晴れた樹と書いて晴樹(はるき)。皆は、はるって呼ぶかな」
「は、はぁ…」
合格なのはありがたい。
だが、「他の家族の方に聞かず、決めてしまってもいいんですか?」とタイミングを計っては、「ほ」の口を開くのだが、スラスラと空中に描かれる文字を追うのが精いっぱいで、口がはさめない。
なんだか…彼と話していると目がしばしばする。
「ところで夏月ちゃん…キミ、夕方に見たときは制服着てたような…若いようだけど、高校生じゃないよね?」
ギクッ
「誕生日は? 血液型は? 身長、体重は? 趣味はなに? おにぎりの具は何が好き? お風呂ではどこから洗う?」
「おふ…!? ちょ、ちょちょっ…」
「好きな異性のタイプは―――」
「おぎゃぁぁぁあっ」
「おっと!」
(た、助かった…)
晴樹の泣き声で、前のめりになっていた姿勢が遠ざかっていった。
興奮気味に身を乗り出していた彼に、夏月も気づかないうちに胸の前に手を差し込んでいた。
苦笑いを浮かべつつ手を下ろすと、涙で溶けてしまいそうな瞳で晴樹が夏月を見つめていた。
親指をくわえた口元へ食い入るように吸い寄せられる。
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