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そう言って如何にも不機嫌そうに顔をしかめた清人を見て、真澄は慌てて宥めた。
「清人、これ位の事で一々怒らないで。ちょっとした手違いよ。フロントに電話して、私の分だけ持ってきて貰うわ。ほら、先にお風呂に入って機嫌直して頂戴」
「分かった」
まだ何となく不機嫌そうな気配を漂わせながらも、清人は大人しく寝室の向こうのバスルームに消えてから、真澄は受話器を取り上げて内線でフロントを呼び出した。
そして風呂を済ませた清人が浴室から寝室へと戻ると、何故か真澄は広いダブルベッドの端に座り、膝に置いたホテルのロゴが入った紙袋の中を微動だにせず覗き込んでいるところだった。
「……真澄? ああ、頼んだのが届いたんだな」
声をかけながらパジャマ姿の清人が近付くと、真澄は傍目にもビクッと体を強張らせてから慌ててその袋の口を閉じた。
「とっ、届いた事は届いたんだけど……」
「どうした?」
明らかに狼狽している真澄に、清人は僅かに険しい視線を向けて問いかけたが、真澄は視線をさまよわせてから何か諦めた様にうなだれた。
「……ううん、何でもないの。お風呂に入って来ます」
「ああ」
紙袋を提げてのろのろと浴室に向かう真澄の後ろ姿に、(どうかしたのか?)と清人は怪訝に思ったが、取り敢えず深く追及するのは止めて様子を見てみる事にした。
「……上がりました」
ちょっと長めかと気を揉んだものの、無事に真澄が浴室から寝室に戻って来た為、ベッドに座って本を読んでいた清人は立ち上がり、備え付けの冷蔵庫に向かって歩きながら声をかけた。
「ああ、ミネラルウォーターでも飲むか?」
「ええ……」
真澄が何となく元気が無い様に感じた為、清人はミネラルウォーターを注いだグラスを手にして戻り、自分が座っていたのとは反対側に座った真澄に手渡した。
そしてその横に並んで座りながら、真澄の姿を眺める。
「真澄? 汗が引いたら着替えるのか?」
バスローブを身に纏っている真澄に、清人が不思議そうに問い掛けると、真澄は言いにくそうに言葉を濁す。
「そうじゃなくて……、着替えた事は着替えたんだけど……」
「じゃあこれの上にバスローブを着込んでるわけか? なんだってそんな事をしてるんだ?」
自分のパジャマを軽く摘みながら、清人が呆れ気味の声を出したが、それに触発された様に真澄が声を張り上げた。
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