・最新鋭潜水艦 かいりゅう

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タイトルマッチの三十日前。 最新鋭の高速ステルス潜水艦〝かいりゅう〟が脱出訓練のために呉港を出港した。伊豆諸島から小笠原諸島に沿って訓練を繰り返しながら南下し、ニューヘブンでUターンする計画だ。 「二度目の航海が脱出訓練ですよ。それは分かる。しかし、自分たちは艦を貸すだけです。不思議な任務です」 副長の伊東勝男(いとうかつお)三等海佐が言った。 「幕僚監部の立案した訓練です。自分たちは命令に従えばいい」 艦長の吾妻勇気(あづまゆうき)二等海佐は大型モニターに広がる灰色の海を見ながら応えた。彼女は現在、海上自衛隊唯一の女性艦長だ。戦争を想像させない知的な美しさがあるので、政府は平和と女性の社会進出の象徴として、何かと彼女を利用している。 勇気が‘もちしお’の艦長になったのは二年前だ。マスコミは彼女を‘美しすぎる艦長’としてもてはやした。注目を浴びると、彼女に対する自衛隊内部の風当たりは強くなった。男たちの嫉妬と言えばそれまでだが、実務上の悪影響があった。彼女が発する命令に対し、男たちの反応が鈍い。自衛隊内部での彼女の評価は下がったが、それでも政府の思惑が〝かいりゅう〟の艦長にした。
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