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むーちゃんとバイト、これって最高でしょ。このフレーズをずっと朝から唱えてる。
「おはよう! むーちゃん!」
「お、おぉ」
何度も何度も唱えて、テンションをフラットにすることを考える。
ビビらせないように
むーちゃんがドン引きしないように
ただ、その一点に集中して呪文を唱え続けてる。
実際、これだけだって充分嬉しいんだし。
ここで満足できないようじゃ、神様から下される天罰はパンツ手洗いじゃ済まなくなるかもしれない。
もしかしたら、むーちゃんがドン引くどころか、俺のところから逃げ――
「大丈夫か? どっか、いてぇの?」
むーちゃんが俺から逃げてしまう、ただそれを想像しただけで、ブルッと震えるほどの戦慄が背中を駆け抜けた。
「あ、ううん、なんでもない」
「もしかして、俺の作った握り飯で腹とか」
「腹なら、全然大丈夫! ほらっ!」
「んぎゃっ!」
ほらって、笑うだけでいいのに。
なんで、今、俺、Tシャツ捲って腹をむーちゃんに見せるわけ? 露出狂なの?
ほら、むーちゃんだって、奇妙な叫び声上げちゃったじゃん。
全然、ビビらせてんじゃん。
腹筋チラ見せとかしなくたって、腹の調子が良いくらい言えばわかる。
「ご、ごめん」
「あ、いや! 別に! 俺、ちょっとっ」
すっごい引いてる。当たり前だけど。
「! むーちゃん!」
「!」
慌てふためいたむーちゃんが手をバタつかせた拍子に後ろの棚にぶつかって、重いペットボトルの入ったダンボールがグラリと揺れる。
「…………セーフ」
危なかった。
グラリと揺れて落っこちてたら、むーちゃんのこの金髪に直撃だった。
大事故になるとこだった。
ふぅ、と溜め息をひとつ、キラキラ輝く金髪の上に、重たいダンボールの代わりに落っことす。
今日は朝から溜め息ばっかの一日だなって苦笑いを零したところで、こっちへ視線を向けるむーちゃんと目が合った。
バチッと、光線がぶつかりそうなくらいに視線が激突して、むーちゃんが口元を慌しく動かす。
「ごめん、むーちゃん」
腹見せされて昨日以上にビビらせちゃったむーちゃんをこれ以上ビビらせてどうするんだよ。
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