第13章 辣腕女王の策動

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「清香さん、お待たせ!」  約束の時間を数分過ぎて、本社ビル近くのカフェに入った美幸は謝ったが、清香が慌てて立ち上がって頭を下げた。 「いえ、無理なお願いをしたのはこちらですから。お手数おかけして、申し訳ありません」 「大した手間じゃないのよ。各自の参考資料になるからって、課内コンペの時に他の三人のプレゼン資料データは貰ってたし」  そしてすぐに注文を済ませた美幸は、改めて向かい側に座る清香に問いかけた。 「でもどうして、二課でコンペに参加した四人の資料を見たいなんて言ってきたの?」 「あの……、私の思い過ごしかもしれないので、まず見せて頂けないでしょうか?」 「構わないわよ? どうぞ。ええと、これが後輩の蜂谷ので、これが私、これが先輩の高須さんの分で、こっちが渋谷さんの分だけど」 「……ちょっとお借りします」  一人分ずつクリアファイルに入れてきた資料を、テーブルに出した美幸だったが、何故か清香はその表紙を一巡して眺めてから、迷わず由香が作製した分に手を伸ばした。そして中身を取り出して、真剣な表情で目を通し始める。  その強張った顔を見て、美幸が(何事?)と思っていると、一通り資料に目を通した清香が溜め息を吐いて元通りにクリアファイルに纏め、他の三人の分も合わせて美幸に返してきた。 「藤宮さん、ありがとうございました」  あっさりそんな事を言われて、美幸は流石に面食らった。 「え? もう良いの? 他の三人の分は、見なくても良かったわけ?」 「はい。もう分かりましたので」 「分かったって、何が?」 「その渋谷さんの資料、全て真澄さんが作っている筈です」 「何ですって!?」  予想外の事を聞かされて、美幸は声を荒げて勢い良く立ち上がった。しかし周りの人目を引いてしまった事に気付いて、慌てて座りなおしながら問い質す。 「ちょっと待って、清香さん。滅多な事を言わないで。大体、どういう事?」  その問いかけに、清香はちょっと困った表情になりながら、事情を話し出した。 「一か月位前の事ですが、私、母方の祖父の家に行ったんです。兄が同居してますので、甥と姪の顔を見に」 「ああ、課長の所にね。それで?」
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