追憶

2/15
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
もう目はあまり見えない。 すっかり耳も遠くなってしまった。 「父さん! 父さん!」 これは息子の声だ。 戦争が終わった年に生まれたこいつももう五十歳だったかな。 そう思うと俺も随分と歳を取った。 あぁ。今までの思い出が次々と頭に浮かんでくる。 俺ももう長くないということか。 やっと死ねるんだな。 今までの人生、とても辛かった というのも俺は本来ならここにいる人間ではない。 既に死んでいる人間なのだ。 しかし今も生きて、死の間際までこうして声を掛けてもらえている。 おかしな話だ。 俺は家族に囲まれて泣かれながら、幸せだったと死んでもいい人間ではないというのに。 恨まれていてもおかしくない人間だというのにーー
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!