2

2/8
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
 毎度毎度、脇から嫌な汗が滲み出た。初期のころには、いっそ振り返って注意しようかと考えたくらいだ。しかし、気合いを入れて大きく息を吸い込んだところでふと、吐き出す言葉に詰まり、断念してしまった。確たる証拠も無く突然「見ないでください」と言うのは非常識じゃないか。前の席に座る人の背中が目に入るのは、必然なのだから。  ならばせめて顔ぐらいは拝んでおこうと思ったこともあった。配布プリントを後ろへ送るときにちらりと……。だが、失敗に終わった。相手は大きなマスクに黒縁眼鏡、頭にパーカーのフードを深く被って俯いていたため、容貌や表情はさっぱりだったのだ。わかったのは、真後ろの人物がやはり〝怪しい人物〟だということ。男か女かさえ窺えなかった。  仮に背後の人物をS2(エスツー)と呼ぶ。〝ストーカー(S)さん(S)〟の頭文字だ。  S2は、水曜二限のこの講義以外でも、いくつかの大教室講義で拓哉の背後に出没する。月曜二限の哲学総論、火曜四限の社会保障法、木曜五限の人文科学、金曜二限のマーケティング論。つまりは月から金まで毎日! そしてすべて、拓哉が友人を伴わず一人きりで履修している講義! どこで調べた? 気味の悪い!
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!