食う・寝る・遊ぶ!

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食う・寝る・遊ぶ!

俺は、青春という固定概念が嫌いだった。 青春というものは色々な作品で取り上げられるように、仲間と一致団結して汗やら涙やらの体液を垂れ流しながら努力する過程の事を必要以上に崇拝し過ぎていると中学生の頃から思っていた。きっとそんな絵に描いた青春に憧れを持つおめでたい連中は、この小高い丘の上へと続く上り坂すらも足取りが軽く思えている事だろう。 「ぜえ…はあ…何で朝からこんな疲れなきゃならんのだ…」 チェーンが軋む音を振りまきながら、俺は自転車を必死に漕いで汗水を垂らし学校への道を急いでいる。こうしてかく汗など制服のシャツを肌に張り付けさせるだけで、微塵も爽やかなものじゃない。俺は能天気に降り注ぐ陽光すらも恨みがましく感じながら、最後のカーブを曲がった。 桜の木が重たげに枝をしならせる校門を潜り、のろのろと駐輪場に侵入した俺は所定の位置に自転車を置き、小さな鍵を捻り施錠する。そして様々な負の感情がこもった吐息を一つ吐き出すと、誰に言うでもなく空を見上げながら俺は声を発した。 「……あー、疲れた」 尊ばれるはずの青春と相いれず、何もかも億劫に感じる無気力な俺、御塚玲(おつかれい)。汗でへばりついたシャツに嫌気を覚えながらも、気だるげな足取りで校舎へと向かったのだった。 さて、そんな俺が送りたい青春というものを定義していいのならば、俺は「疲れない学校生活」が送りたいと言いたい。 大きな喜びや深い悲しみもいらないが、肉体的疲労も精神的疲労もない、まさしく平穏な学生生活を送りたい。そしてごく平凡な人生を過ごしていきたい…そんな自堕落な野望は確かに心の中にあるのだ。だが世はそんな怠け者を目の敵にする風潮があり、俺はそんな夢は妄想の中だけに留める事しかできなかったのであった。 しかしこの春、俺は知る事となる。汗や涙は勿論の事、暑苦しい根性論を押し付けるような事もない青春があるという事を。 サボる…もとい、癒しを求める事に全力を尽くす青春があるという事を。 若者が若者らしくあるために、食って寝て遊ぶ事に全てをかける奴らが、確かにこの学校にいたという事を。 今は知る由もなかったこの俺は、溜息をつきつつ靴箱に向かって靴を履き替えようとしていたのだった。
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