第3章

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社内の流れも掴み業務にもすっかり慣れて気持ち的に少し余裕が出来て、仕事が楽しく感じられるようになってきた10月の終わり。 企画営業部では来年夏~秋の各ツアーや宣伝打ち合わせの詰めをしていたり、イベント運営部では初春に控えているイベントの準備に追われていたり。 社内は常に何処も忙しそうだ。 在籍アーティストたちは基本、本人たちのペースで制作の時間が取れるようにと配慮されているようだけどスケジュールに切れ目はなく、マネージメント部はいつもバタバタと調整に走り回っているのを見掛ける。 それでもみんなに焦燥感が漂っているなんてことはなく、活気があり仕事に誇りを持っていて、遣り甲斐を感じて動いていることは誰の目にも明らかだ。 そんな会社の基盤を短期間で作り上げた立ち上げメンバー七人には本当に敬服する。 だからその人たちが今でも大切なポジションで大変そうなのは良くわかるのだけど、 その中でも私が知る限り、一番大変そうに見えるのは楠田課長だと思う。 我が社は部署の垣根を越えてアイディアを採用しているところがある。 楠田課長は総務部の仕事はもちろんだが、Rレコーズ時代から買われていた素晴らしい企画力を企画営業部の紀藤課長がかなり頼りにしていて、時折借り出されていることはみんなの知るところで。 その上あの“社長秘書”まで遣って退けている。 その働きぶりには頭が下がる。 「さすがの課長もいっぱいいっぱいで、ちょっと何か考えてるみたいよ。」 玲奈と一緒に出掛けたランチの最中にそんな話が飛び出した。 うちの会社の周辺には美味しいランチを食べさせてくれる所がたくさんあり、毎日お店選びも楽しみのひとつだ。 今日は玲奈の「韓国料理って気分!」の一言で会社から五分の所にある、韓国の家庭料理を出してくれるお店に来ている。 私はこのお店の“鶏肉と野菜の辛味噌炒め定食”が大好きだ。 ご飯にぴったりの辛味噌炒めを頬張っている時に突然そんなことを聞かされ驚いてしまった。 「ホントに?楠田課長にも限界があったんだねぇ。」 「美緒、あんた課長を何だと思ってんのよ。」 「ん?スーパーマン?」 「そんなわけないでしょ!まぁあの人、仕事持ち過ぎだからね。いつかこうなるんじゃないかと思ってたのよ。」
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