第2章

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「・・・・・・薄木はどうしたんだ?」 葛見に問われて秋月の顔が曇る。 「ん・・・・・・まぁいろいろと」 濁す言葉に葛見が太い眉を寄せた。それはそうとと。煙を反対の方向に吐きながら、葛見が秋月の頬に指を伸ばす。秋月が擽ったそうな顔をした。 「お前顔色悪いぞ。ちゃんと食ってんのか?睡眠は?」 「食べてるし寝てるさ・・・・・・相変わらずだな、お前」 「俺が見てないと、お前は何してるか分からないからな」 よせよと、耳朶を擽る指先を秋月が笑いながら外す。その手を反対に掴んで葛見が目の前に引き寄せた。 「爪の色も悪いぞ」 ・・・・・・この人、誰?秋月さんの、なに?? カウンターで包丁を動かしながら、夏目がそれとなく二人を窺う。なんとなく面白くない・・・・・・のはなぜだろう。 「まだちょっと早いが何か作るか?今朝仕入れてきたサヨリがある」 「いい、とりあえず顔を見に来ただけだから。また後から来る」 「そう言わずに―――」 立ち上がった秋月が不意に目を瞑った。カウンターについた肘がかくりと崩れる。 「秋月さん!」 「秋月!」 二人の声が同時に上がった。さっと伸ばした葛見の腕が膝をつく秋月を抱きとめた。自分の胸に額をついたその顔が真っ青になっているのを認めて舌打ちする。 「奥、借りるぜ」 さっと膝裏を掬い上げて秋月を抱き上げる。休憩に使っている店の奥の和室を真直ぐに目指すのは、この店をよく知っているということだろう。襖がぴしゃりと閉まる音に夏目がはっと我に返った。 「―――あ」 俎板の前をしばらくうろうろした挙げ句、包丁を置いて夏目も後を追う。 「・・・・・・あの、秋月さん、大丈夫で・・・・・・」 奥の和室。そっと襖を開けて、かけた夏目の声が途切れた。 二つに折った座布団を頭の下に入れて、額に手の甲を当てた秋月が横たわっている。肌蹴られた作務衣の前・・・露にされた胸の白さが目を射った。上に覆い被さるように屈んだ葛見の掌が、胸の上を這う。 ひく、と仰け反った秋月の喉が動いた。
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