行かないで

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今日は地元の七夕祭り。仲良しの友人数人と連れ立って歩いていた道の途中でクラスメイトのAを見かけた。 紫色の浴衣に赤い帯、後ろで纏められた髪。いつもと違うAの姿にドクンと心臓が音を立てた。 俺は気付けば友人たちの輪から抜けその後ろ姿を追い掛けていた。 ようやく追い付いた背中に向かって名前を呼び掛けるとAが振り返る。 緊張でカラカラに乾いた喉から声を振り絞った。 B「あのさ、よかったら…祭り、俺と一緒に回らない?」 A「ごめん。私彼氏と待ち合わせしてるんだ!」 コロンと髪飾りを揺らしながらAはそう返し、再び前を向き歩き出した。 俺は立ち尽くし見送ることしかできなかった。 彦星の元へ向かう、彼女の後ろ姿を。 本当はその白くて小さな手を掴んで伝えたかった。 「行かないで」と。
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