第1章

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「お、豆ご飯か」 瀬戸のお椀に盛られた白いご飯に、艶めいた翡翠色の豆が目にも涼やかで。額の汗を拭いていた男達の顔が綻んだ。 「そろそろ枝豆の季節だね」 茹でがけに塩を振って、冷えたビールでいきたいねと笑い声が上がった。 昼のラッシュが一波すぎて、二時を回れば入ってくる人もまばらになる。客足が途切れてそろそろいったん暖簾をしまうかと夏目が入り口に向かいかけた時、からりと引き戸が開けられた。 「いらっしゃ―――」 秋月の声が途切れる。薄く笑いを浮かべた男が二人、ゆっくりと入ってくるとカウンターに腰掛けた。 ひとりは二十代も半ばくらいの、短い金髪にタンクトップと皮のパンツ。もうひとりはそれよりは少し年上に見える茶髪に黒い丸サングラス、黒のレザースーツの上下を慣れた風に着こなしている。二人ともいかにも堅気でないと分かる風体をしていた。 夏目がそっと眉をひそめる。 「お久しぶりですね」 丸サングラスの男が、柔らかな口調で秋月に話しかけた。 「お父さまのお葬式以来ですから……もう一年以上になりますか」 「……何の御用ですか、朽葉さん」 固くなった秋月の表情に、夏目が朽葉と呼ばれた男に視線を投げる。 「お昼を頂きに来たに決まっているでしょう」 夏目、昼定ふたつと秋月が強張った声のまま告げた。はい、とカウンターを回って夏目が厨房に入った。 「繁盛なさっているようですね」 小鉢のざる豆腐に箸を付けながら朽葉が言った。隣りに座った金髪の男が落ちつかなそうに、きょろきょろと店内に視線を走らせる。「……おかげさまで」 答える秋月の表情は硬いままだ。 「この間のお話は考えていただけましたか?」 きゅ、と秋月の眉が寄せられる。 「その話はお断りしたはずですが」 「こちらとしては随分お譲りした条件のつもりなんですがね」 丸サングラスの下から視線がちらりと夏目に走る。
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