-3- 愛おしい僕の天使

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今まで一週間と間を空けることなく部屋に来ていた天使が、もう二週間姿を見せていなかった。 三週間経ったあたりから不安になり、窓際にホットミルクとお菓子をトレーに乗せて置いた。ミルクはすぐに冷たくなってしまう。二ヶ月が過ぎて、買い物かごに入っている牛乳パックに気づいてはっとして、絶望的な気持ちで棚に戻した。 多分もう、ここに天使は来ない。天使が舞い降りてくるなんて奇跡がいつまでも続くはずはないと、どこかでは理解していたはずだ。 こんな風に姿を消すのなら僕の幸運を全部持って行って欲しかった。 そんなことを思いながらも普通に大学に通い講義を受ける僕は、薄情なのか、すでに心が壊れているのかわからない。 一緒に過ごした部屋をいくら見回しても、どこにも天使の痕跡はなかった。何かショックなことがあって心を病むとかして、つかの間に見た幻なのかも知れないと思い始めた。もしくは僕は死を前にもう意識はなくて、大学に通う今もまた夢なのかもしれない。 天使を思うたび混乱し、自分をなだめ日常を続ける。その繰り返しだった。 これが君が僕に残した幸福?天使のいない色褪せた世界を、幸せだと僕が思うと君は思う? モモ……天使が僕を呼ぶ声がした。 「も……も…う、桃生、おい、大丈夫か?ゼミ終わったよ。次、講義ないの?」 「あ…、あぁ、うん」 友人に意味のない応えを返す。じっと窓の外を睨んでみるけれど、もちろん天使は現れない。 そういえば天使とは家でしか会うことがなかったのに、外であったことを知っていた。あの時は天使なんだからそれくらいなんてことない気がしていたけれど、今思えば見えないところから僕を見ていたのかもしれない。あたりを見回してみるが、どこにも気配は感じられない。 「ほんとに大丈夫?失恋か?ヤケ酒なら付き合うよ」
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