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オレの頬から口唇を離す間際、綾乃さんは耳もとで「ご馳走さま」とオレにささやく。それからゆっくり身体を起こすと、真彩に手をふり校舎に向かって歩き出す。
すげえ柔らかかった……彼女の口唇。オレの心臓がドキドキしてる。それにあの女(ひと)、いい匂いがした。
(ッて、ちっげーよオレ! 綾乃さんは男じゃんか)
ふるふると頭をふって、脳裡から邪念を追い出そうと試みる。けど未だにオレの頬は、彼女の柔らかい感触が残ったままで……って、だから女じゃねえって!
「悠愛くん。では僕も失礼するよ。ああそれから、綾乃のキスは僕が回収させて貰うよ」
「へッ?……――ッ!?」
理人さんが立ち上がる際に、オレに意味の分かんねえ事を言ってきた。けどそれはつぎの瞬間、嫌って程に理解する事ができたんだ。
「じゃあ悠愛くん、また会おう」
そんなキザな台詞を残して、理人さんは綾乃さんの後を追って去っていった。
マジかよ……冗談じゃねえぞ、あの野郎。キスの回収って、そういう事かよ。あいつ綾乃さんがキスしたところへ、同じようにキスしていきやがった。
さっきまで気持ち良かったのに、今はやたらヌメッとする。おしぼりで頬をごしごし拭いていると、一部始終を見ていた真彩が「ねえ悠愛くん、どうだった?」なんて、頬を染めて聴いてくる。
お願いだから真彩、変な趣味に目覚めないでくれよ。そう切に願う……オレ。
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