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「坂崎さん……! どうも、ご無沙汰しています」
聡が、深く一礼する。
「おい、神原、何やってんだ?!」 と、岩代が、神原の肩を軽くどついた。
神原は、そのままアパートの入口へと向かって歩き出す。
その後を追いながら、岩代がすかさず、囁き声で神原に訊いた。
「おい、誰だよ、あのメガネのヤツ? 高校の社会科の教生みたいな。坂崎鑑識係長と、やけに馴れ馴れしく話していやがるけど?」
「……本庁の元鑑識課員だよ」
神原は、立禁テープを持ち上げてくぐりながら、岩代の問いに応じた。
「『元』? 『元』ってなんだよ、どっかに異動したのか」
岩代からの問いへの答えを、神原は、一瞬、言い淀む。
するとその代わりのように、ふたりの背後から、無愛想なダミ声が、短くこう応じた。
「辞めたんだ」
坂崎鑑識係長の声だった。
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