ワンパスタ

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「怖い目に合うわ、変わり者に囲まれるわで安心できないでしょう?」 「えぇ、まぁ」 後ろからついて来るキツネは無視し横に座って頷いたが、この人は何となく田村さん的な落ち着きがあるのでまだ話しやすい。 「私も色んな目に合って来ましてあの馬鹿は嫌いですが、でも仕事の内容は間違いだとと思った事はありません。アナタも見たと思いますが、無抵抗で殺された者達を」 呆気なく犠牲になった者達は、何もしていないしこれからだってそうだった筈で、家族があんな目に合ったらと思うと胸が痛くなる。 「百合さんや私が住んでた世界では、警察できちんと犯罪者が裁かれますが、こういう世界では手に負えない力を持った存在が多数いる」 秋月さんは海を見つめながら口をいったん閉じ、またゆっくりと話し始めた。 「それに対抗できるのは選ばれた者で、イザリ屋は闇の仕事ですが、きちんと調べてから請け負う筋の通った商いです。私はああいう人達の代わりに執行してきた、そう思っています」 いつの間にか社長も隣に座り、二人の爺さんに囲まれる形になっていた。 「抵抗したくても普通は何も出来ません、でも身体に刻印が表れた私達は、それに抗う事が出来ます。なので私はイザリ屋で働いてきました」 「私が始めたきっかけは、そんないい理由ではないです」 ボソッと呟くと、仕事をする理由も人それぞれだし、私は貧乏だったからとアッサリと言われた。 照ちゃんがニッコリ微笑むと貧乏というキーワードで急に親近感が湧いてきた。 「段々と実感していっただけだし、色んな事を学ぶ内に違う才能がある事にも気付いた。今は道具を作る側になってます」 「照ちゃんは商売の才能もあるからの、ワシも大金を奪われとるが、それだけの価値はあるから仕方が無い」 「現場はこの馬鹿一族で十分大丈夫だと思ったんだよ。考え方も変えないし、逸れる者がいれば、親族だろうとなんだろうと罰せられるし」 月が水面に浮かんで見え、星も少しキラキラしているのにこんなムードの中、爺さん二人に挟まれている。 ムチャクチャ強くて、変わり者でふざけた人達だけど、たまにはこんな時間を過ごすのも悪くないと静かに耳を傾けていた。
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