<1月> 男前、卑怯者に成り下がる

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『助かりました。忙しいのにすいません』  珍しく渡辺からの電話で、取引先の面倒くさい狸おやじに関しての相談だった。恩を売ったついでに、聞いてしまおうか……というか聞きたい。 「皆は変わりない?」 『変わりないですね、でも騒がしいですよ』 「なにが?」 『来月バレンタインじゃないですか。 石川も辟易って感じですけど、武本さんの身辺に関して聞かれまくりです。飯塚さんも覚えありって感じですね』  俺の小さなため息が聞こえたんだろう。 『本命や彼女関係のこと武本さんしないじゃないですか。本当のところはわかんないですけど、いっそうのこと「本命がいるから望みなし」って御触れでもだしたいくらいです。周りがウザイですからね。俺ヒガミっぽいかな、笑うしかないって感じですよ』  渡辺の笑い声を聴きながら、それもありだと思い至った。 「本命いるって言っていいぞ」 『え、まじっすか?マジ情報ですか?』 「俺と武本の仲良しっぷりは皆のしるところだろ?情報のソースが俺だと言えば、外野も黙るだろう」 『飯塚さんは逢ったことあるんですか?』 「まあな」 『どんな人です?やっぱり綺麗な人なんでしょうね』 「それは俺の口から言えないな。こんなことバラしてるだけで、すっげ~怒られる」 『ですね。武本さん怒ると怖いですよね。今日はいい情報もらいました! あのおっさん絶対攻略してやります。あとギャーギャーいってるアイツらギャフンと言わせてやる。 うわ、なんか楽しくなってきました!これから石川にも話ます、おつかれっした!』  やや卑怯な絡めて手だったことは認める。でも多少一歩は踏み出した。さあ、これがどこに転がるか。多少けん制にはなるだろう。  しかし……俺は武本のことになるとホントに情けないヘタレだ。
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