12撃目 接近

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「あなた、一人旅から帰ってきてから≪魔女≫の本とか集めて≪魔女≫のことをずっと調べてるじゃない。いずれこっちも厳しく取り締まるようになって、あなたが大国軍に捕まるようなことがあったら……」 「大丈夫、気を付けるよ」  いつものように笑いかけてみたが、母は困った顔をしたままドアの前に立っている。そう言われてもそれらを片付けて処分しようとしない息子の態度に納得していないようだった。とはいえユーは母親の不安は当然のものとしてしっかりと受け止めている。 「確かに、大国内では≪魔女≫への不安を煽るものを廃棄して、それを発表した研究者を捕まえては罰しているのも知ってるよ。それに、街では≪魔女≫のことを口に出すことすらダメなんでしょ。でも遠く離れたここの民間人レベルを取り締まるなんてできっこないよ」 「もう、大国がこっちに指示してくる前にやめるのよ」  この場は諦めたのか母はそう言い残して部屋を去った。ユーは小さく溜息を吐き、机の上に広げた文献にもう一度視線を向けた。 ──バイセンヘクセブルクらしくないよね。今まで≪魔女≫のことなんて一度も言ってこなかったのに、突然『≪魔女≫のことを調べるな』だなんて。もしかしてルム達は重大な≪魔女≫に接触したの?  ストリガの花言葉を伝えたあの日から未だルム達と連絡が取れない。とても不安だが、あの様子から彼女達はとんでもないところに足を踏み入れてしまったのだろう。今の自分に出来るのは、今は自ら首を突っ込まないように彼女達から連絡があることを待つだけだ。ユーが巻き込まれることを望んでいないのは他でもないルムとサンダーだから。 「急がなきゃ」  自分がここにいる理由を覆すために。 【12撃目;了】
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