第38話 別れ

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「ねぇ、あれアキラさんじゃない!?」 車内の誰かがそう叫ぶ。 それを仕切りに、車内の若い女性達はどこどこ?とアキラを探しだした。 それでも、アキラは自分だけを見つめる。自分だけを捉えている。 自分だけの名前を呼び続ける。 その姿を、その声を、 見たくなくて、聴きたくなくて、 その場にしゃがみこんだ。 どうして………。どうしてあなたなの……? あなただったの……? 電車のスピードが緩んで駅に止まった。 アキラが駅に入って来るのが見えて、慌てて電車を降り階段を上がる。 別のホームに移動し、停まっていた電車に乗り込んだ。 電車はすぐに動き出す。どうやら自分が乗ったのは特急のようだった。 普通の電車よりも速く感じる。 …このまま遠い場所に行こう。 あの人の姿が、あの人の声が、 見えないところまで、聴こえないところまで。 遠く、遠くに行こう。 流れる景色を見ながら涙が溢れる。 頭の中には龍と聖の会話を思い出していた。 『俺は信じないぞ…』 『…龍。どんなに信じられなくても、紛れもない真実だ。 目を逸らしたところで変わらない』 『ふざけんなっ……! 俺とあいつが……、……っ…!! 兄妹じゃないなんて、実は血が繋がってないなんて、そんなことあるわけないだろ! ……しかも、DNAが一致したのがアキラだったなんて…。…本当は、あの二人が兄妹だったって…。 どう伝えるんだよ、あいつらに……』 思い出してしまうと、余計に涙が止まらなくなった。 そんなはずはない。あるはずがない! だって、私の記憶が、お兄ちゃんの記憶が、アキラさんの記憶が。 それぞれの家庭で育ったこと。親のこと。 それらがすべて証拠になっている。 でも、なら、としたら………? 最終的にその考えにしか辿り着けなかった。 拭っても拭っても溢れる涙を、もう拭くことはしなかった。 その代わりに、消えていく街をただ見つめる。 バイバイ、私の好きな街。 バイバイ。お兄ちゃん、琥珀さん、久遠さん、香登、羅絃。 そして、私にいろんな初めてを教えてくれた人。 大好きな人。 …バイバイ、アキラさん。 【完】 『Anniversary Ring Ⅲ』に続く。
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