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思わず、足元がくらりとした。
「そんな前から…?」
「うん」
去年の春。
お互いの学校に咲く桜の写真を送り合ったあの日。
彼女が送ってくれた写真は、今も携帯電話の画像フォルダで保護されている。
大学のキャンパス内の桜並木。
綺麗だね、とメッセージを送り合った春。
その時から…。
「せめて」
見下ろす形で、美弥さんの瞳を見つめる。
「せめて、僕には最初に言って欲しかった。」
階段を、一段一段降りていく。
少しずつ、近づいていく距離。
補習中の教室も、部活中のグラウンドも知らない。
僕より少しだけ背の高い彼女。
最後の一段は、降りずに。
今、わずか数センチだけ僕の方が高い位置にいる。
上目遣いの美弥さんが、急激に可愛く愛しく見えてしまった。
キスがしたい。
一度湧いた感情は戻らずに、思わず顔を近づける。
まるで分かっていたかのように、彼女が目を閉じる。
脈絡のないキス。
唇を離すと、長い睫毛が綺麗に上向きになっているのが見えた。
「美弥」
初めて、さん付けをやめた。
行くなよ。
そう、言えたら良かったのに。
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