A melody

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それから、僕たちは何も言わず階段に腰かけた。 黙って、数分。 時間が経つにつれて、僕の頭は冷静さを取り戻し始めた。 「ごめん」 何に対しての謝罪なのか分からないけど、僕はそう呟いた。 「大和が謝ることはないよ」 「うん」 僕の掌に、彼女が触れる。 柔らかな感触。 「なんでだろうって、思ったよ」 窓の向こうを眺めながら、口を開く。 「皆がすぐに納得したこととか、抜ける理由とか。」 「抜けるのは…皆のためだよ。大和も受験でしょ。」 「そうだけど、来年も再来年もずっと僕たちはバンドがやれると思ってたよ。僕たちならやれるって。」 それに、と続ける。 「美弥さんらしくないよ、そんな理由」 いつだって、夢を見ていた。 自分の好きなことに全力で取り組む人だった。 そんなところを、好きになったのに。 きゅ、と彼女の手を握る。 「でも」 左目がかすむ。 あぁ、駄目だ。泣いたら駄目だ。 泣いたりしたら、子供みたいに思われる。 「もう、決めたんだよね。」 美弥さんが、小さく頷く。 「今すぐには、分かったとは言えない。でも美弥さんのこと分かりたいから…少しだけ時間をください。」 そして、互いに顔を見合わせる。 「うん。…ありがとうね」 彼女も、泣いていた。綺麗な涙だった。 見惚れるほどに、きみは綺麗だ。 その時、美弥さんの鞄のなかで、スマートフォンの着信音がした。 「…出なくて良いの?」 「うん…」 身を寄せあい、また口づけをした。 鳴り止まない携帯電話を、知らないフリして。
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