最終章

3/4
153人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
その日から俺たちは一緒の部屋で過ごして、一緒に眠りについた。  ……ただ、一緒に時を重ねた。  結局、ゴールデンウィークの休みが明けても大学に戻ることが出来なかった。ほんの一週間前には瑞樹との今後を決めると思っていたのに。今は何も考えられず、ただ瑞樹に与えられる執行猶予のような時間の中で生きている。  大型連休もすぐに明け、瑞樹が社会へと戻る時がきた。そろそろタイムリミットだ。  「おはよう」から始まって「おやすみ」まで、他愛もないことだけを話す。テレビで見たニュースや会社のこと、過去には一切触れない。少しずつ近くなっていく距離に心地よさを覚えて来た。  そして、その日は突然来た。 朝目が覚めて、明るい空を見た時に気が付いた。……側にいれば甘えてしまう。完全に瑞樹のお荷物になっているという感覚しかない。瑞樹はそう思っていなくても自分自身が納得していない関係。これは俺が望んでいた未来じゃない。  瑞樹は、高校時代の俺の影を引きずっているだけとしか思えない。だから、もう一度リスタートする。今度、同じステージに立てれば、きっと今とは違うと感じた。   俺は、あの日から全てやり直す。  瑞樹に追い付いて、同じ視点でまたものを見ることができるようになったなら。そうしたら、もう一度正面から向き合えるかもしれない。今のままではどうしても自分が卑屈になってしまう。  一度、きちんと線を引く。もしも本当に俺と瑞樹の未来が寄り添う運命なのなら、必ずまた戻ってこられるはず。  今まで俺のために犠牲にした時間を瑞樹にも取り戻して欲しい、呪縛からの開放。これは俺にしかできないこと。二人ともの新しい出発、今度は俺が瑞樹を追いかける番。  万一、離れている間に瑞樹がだれか他の人と出会ってしまってもそうなる運命。運命論者じゃないけれど、今だけはそう思う。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!