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ホームに電車が入ってきたのであたしも乗車口の近くに並ぶ。 まわりを見てみると何人か、びしょぬれになっている乗客がいる。 いきなり降ってきたから無理もない。 あたしも、タクミくんがいなかったら今頃びしょぬれで帰っているところだ。 電車は帰宅の時間のせいもあって少し混んでいる。 あ、そういえば・・ あたしは、さっきタクミくんから返ってきたスマホをそのまま見ていなかったことに 気付く。 「五十嵐 拓海」 あたしのメッセージアプリの画面には、そう表示されていた。 五十嵐拓海くんていうんだ・・・。 最初見たときはとにかくかっこよくて、 見た目で気になってたけど、話してみると なんていうか・・意外と人懐っこくて親しみやすい。 ちょっとあたしを面白がってるかんじはするけど。 なんてメッセージをいれようか考えたけど 名前をいれることにした。 「鈴木花音です。」 そう打ったあと、味気なさすぎるなと気付いて 「さっきは、雷から助けてくれてありがとう」 と追加して、送信した。 短い文章を打っただけなのに、顔は熱くなり、 胸もドキドキしていた。 もう、あたし、さっきから興奮しすぎでしょ・・・・・・・。 電車の窓の外を見ているとすぐにスマホが震えた。 いそいで画面を見たら、お母さんからだった。 「雨、大丈夫??駅まで迎えにいこうか?」 あたしが傘を持っていかなかったから心配してくれたみたい。 ありがたいけど、すごいタイミングだったから思わずガッカリしてしまった。 「ありがとう。お願いします。もうすぐ着くよ」 そう返信してからあたしは気付いた。 そうだ、拓海くんはスマホを忘れたから、家にかえらないと返信できないんだった。 そしてなんだか引っかかった。 スマホを持ってなかったタクミくん。 でも・・・・ あたしは里奈と話し終えて、すぐ昇降口から出たのに、 もうそこに拓海くんはいて、 あたしがカラオケを断ったことを知ってた。 どうして? 里奈がすぐ遠藤君に連絡して、遠藤君に聞いたのかな。 うん、きっとそうだ。 それしか考えられないけど、 なぜかあたしの頭の隅には さっきの拓海くんの言葉が住み着いてしまった。 「俺、耳がいいんだ」
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